現代のスペインを代表する意欲作が日本でお披露目―。スペイン映画の最新作9本を集めた「スペイン映画祭2019」が6月25日、東京都千代田区のインスティトゥト・セルバンテス東京で開幕し、来日監督をゲストに招いてオープニングイベントが開かれた。

 映画祭で上映されるのは9作品で、ほとんどが日本初公開。スペインのアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞で作品賞など3冠に輝いた「チャンピオンズ(仮題)」(ハビエル・フェセル監督)の特別上映のほか、昨年のサンセバスチャン国際映画祭で最優秀作品賞を受賞した「二筋の川」(イサキ・ラクエスタ監督)や、ラクエスタ監督が日本の河瀬直美監督と交わした往復書簡を映像化した「イン・ビトゥイーン・デイズ」、87歳の巨匠、カルロス・サウラ監督に迫るドキュメンタリー「サウラ家の人々」(フェリックス・ビスカレット監督)、今年3月の東京アニメアワードフェスティバルでグランプリを獲得した「アナザー デイ オブ ライフ」(ラウル・デ・ラ・フエンテ監督、ダミアン・ネノウ監督)など刺激的な作品がそろった。

 この日のイベントには、オープニング作品「二筋の川」のラクエスタ監督のほか、26日に上映される「内通者」の共同監督の1人、アナ・シュルツ監督、在日スペイン大使館のホルヘ・トレド・アルビニャーナ大使らが出席。アルビニャーナ大使は「20年前と比べて日本でのスペインの存在感は増しており、中でもスペイン料理店はたくさんできている。ただスペイン映画は、ビクトル・エリセやペドロ・アルモドバルが人気を集めていたかつてほどは見る機会が減っている気がする。現在も素晴らしいスペイン映画は多く、この映画祭をきっかけにもっと興味を持っていただけたら」とアピールする。

 続いて挨拶に立った初来日のラクエスタ監督は、子どものころから日本とは心で深く結ばれていたと告白。父親に連れていってもらった黒澤明監督の「デルス・ウザーラ」が深く印象に残っており、大学で映画を学んでいたころは、小津安二郎、成瀬巳喜男、溝口健二、今村昌平の各監督作品ら数多くの日本映画に触れた。「それらの監督の作品は私のDNAに組み込まれている。先ほど、私の名のイサキは、日本語で魚の名前がと聞いた。どうか私を食べないように」と、会場の笑いを誘っていた。

 「二筋の川」は、ラクエスタ監督が12年前に撮った代表作「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ~時間の伝説~」の続編ともいえる作品。貧しい海辺の町を舞台に、刑期を終えて出所してきたばかりのイスラと、長い兵役を終えて帰ってきたチェイトの兄弟の和解と葛藤が、ドキュメンタリータッチの生々しい映像で綴られる。共同脚本を務める公私両面でのパートナー、イサ・カンポさんと質疑応答に登場したラクエスタ監督は「俳優にはせりふを覚えさせるのではなく、シーンの説明だけをして、自由に語ってもらった。音楽でいえば、オーケストラ曲というよりジャズのようなもので、その場その場でせりふを変えています」と撮影の一端を明かした。

 スペイン映画祭2019は7月2日までの開催。(藤井克郎)

パートナーのイサ・カンポさん(左)とともに質疑応答に臨んだイサキ・ラクエスタ監督=6月25日、東京都千代田区のインスティトゥト・セルバンテス東京(藤井克郎撮影)

上映前の舞台挨拶に立つイサキ・ラクエスタ監督=6月25日、東京都千代田区のインスティトゥト・セルバンテス東京(藤井克郎撮影)