35年の歴史にいよいよ幕が下りる。市民の手作りによる運営で親しまれてきた「あきる野映画祭」が、明日7月28日まで東京都あきる野市の五日市会館をメイン会場に開かれている。今年が最後の開催と聞いて、27日に上映会場を訪れたが、ボランティアスタッフが明るく元気なおもてなしで観客を迎え入れていた。
あきる野映画祭は、「映画館のない町に映画文化を!」のスローガンで1985年に創設。当初は合併前の町名から「五日市映画祭」の名称だった。洋邦取り混ぜた名作、新作と幅広いラインアップに加え、斎藤耕一、大林宣彦、深作欣二、山田洋次らの名匠に、中野良子、高橋洋子、浜田光夫、宍戸錠といった名優ら多彩なゲストを招くなど、華やかな賑わいを見せた。第3回からはフィルムコンテストを開催するなど、若手映画人の登竜門としても知られ、2006年には8700人もの来場客を記録した。
だが近隣の町にシネコンができ、DVDや動画配信など映画を楽しむ手段も多様になるなど、ここ数年は入場客も減少。スタッフの高齢化もあり、今年で閉幕することになった。
メインスクリーンでの上映2日目となる27日、会場の五日市会館を訪れると、「あきる野映画祭」ののぼりがはためく中、ボランティアスタッフがパンフレットやTシャツなどのグッズ販売、チケットもぎりに会場整備と笑顔でもてなしていた。
この日の上映は4作品。そのうち「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」(2017年)を手がけた安田真奈監督は、この映画祭のフィルムコンテストで4度のグランプリをはじめ数々の賞を受賞している。上映後に登壇した安田監督は「最初は社会人2年目の1994年に賞をいただいて、全く知らない人たちに映画を見ていただいてよかったと言っていただけるとは、なんてすてきなんだろうと映画熱に火が付いた。ここがスタート地点だったんです」と感謝を口にする。
さらに、この後の上映作品で映画祭ゆかりの「五日市物語」(2011年)の小林仁監督も姿を見せ、安田監督との間であきる野映画祭の魅力について歓談。安田監督が「コンテストの後、審査員やスタッフの方々と車座になって語り合う場があったのがよかった。次も頑張ろうという励みになったし、私にとっては心のふるさとみたいな感じです」と話せば、審査員を務めていた小林監督も「そう言っていただけるとありがたい。コンテストが映画を作る原動力になっていたというのはすごくうれしいですね」と笑顔を見せた。
映画祭は明日28日に「約束」(1972年、斎藤耕一監督)など4作品を上映して幕を閉じる。安田監督は「今年で終わるのはすごく寂しいなという気もしつつ、35年も続けてこられたというのはみなさんのご努力と観客の方々の熱意のたまものです。本当にお疲れさまでした」とスタッフの労をねぎらっていた。(藤井克郎)
今年で最後となる「あきるの映画祭」には、スタッフの笑顔があふれていた=7月27日、東京都あきる野市(藤井克郎撮影)
「36.8℃ サンジュウロクドハチブ上映後のトークに登場した安田真奈監督(右)と小林仁監督(中央)=7月27日、東京都あきる野市(藤井克郎撮影)
映画祭ではフィルムで上映する作品もある=7月27日、東京都あきる野市(藤井克郎撮影)
会場には映画祭終了に寄せた吉永小百合からのメッセージも掲げてあった=7月27日、東京都あきる野市(藤井克郎撮影)