大いなるきっかけを持ち帰って

 コロナ禍による入場制限でも、映画にかける若者の熱気は充満していた。9月12日に開幕した自主映画の祭典、第42回ぴあフェスティバルのコンペティション部門「PFFアワード2020」の各賞が決定し、25日に映画祭会場の国立映画アーカイブ(東京都中央区)で表彰式が開催。最も期待したいつくり手に贈られるグランプリには、「へんしんっ!」の石田智哉監督が選ばれた。石田監督は「作っていてすごく楽しかった。周りの人は、自分が監督をしていてどう思っているのか、葛藤や不安もありましたが、自分らしい作品にできたのかなと思っています」と喜びを口にした。

 今年のPFFアワードの入選作は17本。応募総数480本の中から厳しい審査を経て選ばれたもので、8分の短編から131分の長編まで、これまでと同様に幅広いジャンルの多彩な作品がそろった。

 今年は新型コロナウィルスの影響で座席数を3分の1程度に抑え、すべて前日までに予約が必要だった。そのせいもあって、今年はわずか2プログラム、4作品しか見ていないが、その中には賞に輝いた刺激的な作品もあって、ほんのわずかでも今年のPFFの気分を味わうことができたと思っている。

 グランプリに選ばれた石田監督の「へんしんっ!」は残念ながら見逃したが、車いす生活を送る監督が、障害者の表現活動の可能性を探ったドキュメンタリーだという。石田監督に賞状を手渡した最終審査員の1人、大森立嗣監督は、講評で「とにかく興奮しました」とまずは一言。続けて「映画を作る楽しみが画面全体から伝わってくる感じがあった。映画の中で、石田くんが『頑張れとか言われたくない』と言っていたが、映画を作るとかダンスをするといったものは、頑張るとはちょっと違う気がする。問われているのは、もしかしたら見ている観客の方で、彼のことをどういうふうに見つめればいいんだろうというのを、ずっと画面と対話しながら見ていた。彼が楽しんでいる姿が、本当に僕は好きでしたね」と賛辞を贈った。

 このほか、グランプリに迫る才能を感じさせるつくり手に贈られる準グランプリは「屋根裏の巳已己」の寺西涼監督、審査員特別賞は「頭痛が痛い」の守田悠人監督、「MOTHERS」の関麻衣子監督、「未亡人」の野村陽介監督の3人が受賞。また審査員が選ぶ賞とは別のエンタテインメント賞が「こちら放送室よりトム少佐へ」の千阪拓也監督、映画ファン賞が「LUGINSKY」のhaiena監督、観客賞が「アスタースクールデイズ」の稲田百音監督とすべてバラバラの結果になり、それだけ実力が伯仲していたことを物語る。

 今年の最終審査員は、大森監督に加えて、俳優で映画監督の齊藤工、プロデューサーの樋口泰人、画家の平松麻、映画監督の古厩智之の5人が務めた。昨年に続いて審査を行った齊藤監督は、総評で「自分一人の見方は本当に一つの角度でしかない。4人の方と一緒に作品に向き合った時間は、自分の角度も増えたし、どんどん自分の中で発酵していった作品もあり、貴重な時間をいただきました。今回グランプリじゃなかった人も、17作品に選ばれなかった人も、みなさん大いなるきっかけを持ち帰ってほしい。悔しかったきっかけでも、報われたきっかけでも、すべてが次の座標に向かう点になると思うんです。これからのフィルムメーカーとしての歩みを楽しみにしています」と若い監督たちにエールを送っていた。

 今年の映画祭は、9月26日(土)にグランプリ、準グランプリ作品が上映されて閉幕するが、10月31日(土)まですべての入選作17作品が配信で鑑賞できる。(藤井克郎)

グランプリを受賞した石田智哉監督(中央)に賞状を手渡す大森立嗣監督(右)=2020年9月25日、東京都中央区の国立映画アーカイブ(藤井克郎撮影)

受賞した若い監督たち(手前)と最終審査員の5人(後方)=2020年9月25日、東京都中央区の国立映画アーカイブ(藤井克郎撮影)